リベラリズムのもっと向こう〜椹木野衣による「美術評」から〜

  • 2017.09.21 Thursday
  • 16:53

私は、9月8日付けの椹木氏による「美術評」に、強い関心を寄せた。それは、「黄金町バザール2017」に出展された毒山凡太郎氏によるインスタレーションへの評であった。

 

まず、この記事の始まりがなかなか挑発的だ。「マルチカルチュラリズムやポストコロニアリズム・・・がもし絵にかいた餅でなかったのなら、私たちはなぜ、いまこれほどの苦境に陥っているのか」という投げかけで始まる。70年代から2o世紀後半にかけて、一種の新しいパラダイムとして、リベラリズムを批判しつつ発展させてきた、これらの批評・思想運動、そして実践は、無意味であったかの問いかけには、ドキっとせざるを得ない。自分も、それらの理論的見地や効果を信じてきた上に、もしかしたら、今日(こんにち)のありさまをみて、自信を失いそうな気持になることがあるからだ。そう、自分は「ただ黙り込むしかない」のかもしれない、と無力感にさいなまれることの方が多い。一人ひとりは、なんと何の力も持ちえないものなのだろうか。

 

しかし、椹木氏は、こう切り返す:「世界はますます寛容と共存を渇望していると言ってもいい。もはや、それなくしては一時たりとも生きていけないかのように。」マルチカルチチュラリズムやポストコロニアリズムが、もし単なる学術論文を積み重ねるだけの手段であったなら、無力感しか感じないが、もっとリアルに、私たちが多文化共生や寛容、そしてやさしさを求めていることを認識することができるならば、きっと、これらの批評・思想運動・実践は、もっと活躍していくに違いない。問題は、どの地平から、再度仕切りなおすのか、という大きな問いに対峙するべきなのか、ということだと感じている。

 

そんな大きな問いに対して、椹木氏は、毒山氏による、沖縄県平和祈念公園内の平和の礎(いしじ)に向かい、「戦争は終わりました」と叫ぶ毒山氏による作品を出展している。私も、すぐに見に行った。そして、前のブログでも書いたが、ちょうど沖縄出張があったため、平和の礎も訪れた。

 

そこで、あらためて毒山氏のように「戦争は終わりましたよ」と声に出して叫ぶことはなかったが、心の中で叫んでみようとした。平和の礎は、出身地や所属に関係なく、つまり沖縄出身でも本土出身でも朝鮮半島出身でもアメリカ出身でも、その出自に関係なく、多くの人の命が失われたことを悼み、「命どぅ宝」という沖縄独自の平和思想の文脈の中で、文字通り平和を祈念している。命あってこそ、私たちは生を充実させることができる。

 

一方、自分たちの生が、様々な局面で大切にされているという実感を、世界中の多くの人が持ちえない現実に目を向ければ、「戦争は終わりましたよ」と、平和の礎に向かって叫ぶことなど、やはりできないと強く思った。なぜ、オスプレイが飛行訓練をしようとするのか、なぜ普天間の代替地が辺野古しかないのか、そもそも米軍基地をなくすことはできないのか、そして、その米軍と一体化することをなぜ積極的平和ということばによって可能にしてしまったのか―――そんな社会に住む自分たちのことを考えれば、命を落とした人たちの名前を刻んだ平和の礎の前で、「戦争は終わりました」などと叫ぶことができないのだ。

 

「他者にじかに呼びかけ、そこでどのような反応が起きるかを見てみないことにいは」戦争が終わったのかどうか、私たちは「理解はできない」と、この美術評は結んでいる。私は、平和の礎に問いかけようとしたら、出来なかったため、呼びかけたことから、学ぶことができたということわけだ。本当に、学んだのかどうか分からないが。

 

「他者」に向かって呼びかけることが、こんなに自分に戻ってきてしまうものを認識できるのかと、あらためて芸術の力を確認することができた。しかし、ここで、自分に戻ってきてしまう「他者」からの応答は、決して、法廷上で証明できるような対象ではない。その「他者」存在を具体的に、物質化して、第三者に差し出すこともできない。それは、文学・芸術上のおとぎだとの誹りを受けることの方が多い。が、しかし、他者に問いかけるという身体的な所作が、他者の存在と新しいかたちで出会う可能性をこじあけようとした、毒山氏による作品に敬意を表したいし、それを言語化した椹木氏の評の鋭さにも感心した。

 

ここから、何かを始めるのだ。

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